昨年末、庭にたわわに成る柿を取ろうとしたとき、掴んだ枝がバキッと折れて仰向けに転倒し、腰のあたりを強打してしまった。MRIの結果、なんと脊椎骨折というお達しで、コルセットで胴体を固め、6ヵ月の蟄居の身となったが、そんな中、「細胞を元気にする調圧ルーム」の噂を聞きつけた。
骨の細胞だって元気になるのかもしれないと期待して、怪我以来はじめての遠出を決意し、新たに立川に開店した「リラクゼーション進盟」に向かった。
ここは翼のない飛行機に入り込んだような感じの場所で、20人ほどの同乗者たちは、それぞれ好き勝手に寛いでいる。
サウナでもない常温の部屋にただ坐っているだけなのに、身体が芯のほうからほんわり暖かくなってきて、脚腰や肩のこわばりも融けた。体温を測ったらなんと2度近く上がっている。病気で発熱したら心拍数が上がったりグッタリしたりするのに、ここでは上げ潮のようにエネルギーが満ちてくる感じがする。子供の頃の口癖だった「お天道様」という言葉を甦えらせる、無性に懐かしい感覚だ。
唯一気をつけることは「耳抜き」である。気圧が上下するので、耳の中がおかしくならないように、唾液や水を飲みこんだりして、耳の内圧をこまめに放出しなければならないが、スキンダイバーでグライダー乗りでもあった私にとっては昔取った杵柄で、むしろ楽しい。
この調圧ルームの成り立ちについて、開発者である川上進盟氏に、お話をうかがった。
桐島 :
これまでにたくさんの特許をお取りになった発明家だとうかがいました。
進盟 :
私が勤めていたのは、企業の研究部門で、プラスチック関連の研究開発をやっていました。特許というのは「世界初」であれば取れるものなのですが、企業に利益を生む特許となると「世界初」だけでなく、「ナンバーワン」でないといけない。研究員200名が毎日アイデアを考えても、利益を生むような特許は10年に1個くらいです。
私たちは研究者なので、まず疑うことから始めます。既にある物や既存の考え方をそのまま信じてしまっては、新しい発明も発見もできないです。
運動しなくても心肺機能を高められないか?が出発点だった
桐島 :
どんな経緯で「気圧を変える」というアイデアが生まれたのですか。
進盟 :
会社の昼休みに同僚とランニングをやっていましたが、やり過ぎると膝を痛める、膝を痛めるとトレーニングができない。これはなんとかならないかと。
そんなとき、登山家の今井通子さんの講演を聞く機会がありました。5〜6千メートル級の高山では酸素がうすいため、寝ていても息がはぁはぁする。つまり、酸素濃度が下がると呼吸回数が増えて、体内酸素量を確保するように努めます。しかし、この様な状態が長く続くと防御機構が働き出して赤血球を増やすようになります。
よくマラソン選手が高地に長期間滞在して行なっている高地トレーニングとは、この仕組みを利用して赤血球を増やすことが目的なのです。
酸素がうすいと、心肺機能が鍛えられるという今井通子さんのお話にヒントを頂いて「高地に行かなくても心肺機能を高められる設備」のアイデアが浮かびました。ただ、自分の勤めている会社の事業とは関係ないなと思っていたら、会社で提案制度というのが発足し、専門分野とは違ってもいいからアイデアを提案するようにといわれ、これを提出しました。30代のころでしたね。その結果はボツだったので、じゃあ定年になって、その頃、誰もやっていなかったら、このアイデアを実行してみようとずっと頭のすみであたためていたわけです。
桐島 :
30年後にまだ手つかずだったらなんて、ずいぶん奥ゆかしくていらっしゃるのですね。
進盟 :
定年をむかえ、嘱託になってからは、残業しないでこの研究に本腰をいれました。大規模な減圧施設は、既に自衛隊や一部の大学にあって、自衛隊では飛行訓練用、大学では高山病の研究用などでしたから、自分が考えているものとは目的が違いました。
同僚や友人からのカンパもあって、2002年には初代の減圧ドームを自宅ちかくに作ることができました。2004年末には嘱託も辞めて退職金が出たのでカンパ資金も返しました。私が開発したものは、小型で移動も可能なタイプだったので、装置としての特許を取ることができ、参加した全員の特許としました。
当初は標高4千メートル級の気圧を30分体験するものでした。自分や家族、友人にも試してもらいました。ドームで酸素のうすい状況を体験してから、外に出て歩いたり、走ったりすると、いつもよりずっと早く目的地に着くことができた。なるほど、心肺機能を向上させて運動能力を上げられるなということは確認できました。
その頃、私と同じような実験をやっているアメリカのスポーツ医学の博士がいました。彼の説は、酸素が薄いと赤血球の産生を促すホルモンが出て、これがドーピング剤のような働きをするから運動能力が高まる、というものでした。しかし、私はそうではないと思いました。というのも減圧を体験した人の中に、冷え症や肩こりが改善されたという人が次々と現れたからです。



