
さて、私たち人間にとって利用しやすい有機の硫黄は、正式には「メチル・スルフォニル・メタン」と言い、わかりやすいように略して「MSM」と呼ばれます。健康のための栄養補給用サプリメントとして使われるMSMは、現在は、針葉樹の一種であるテーダ松などから抽出されています。
では、この有機の硫黄MSMは、私たちの体の中でどのように使われるのでしょうか?
私たちの体がMSMを利用して健康を保っていることが最初に明らかになったのは、1960年代のことで、科学の世界ではつい最近です。初めは動物実験でしたが、食べものから取り入れたMSMや、体の中で起きる反応の結果にできたMSMが、生命にとって欠かせない大事なアミノ酸になっていることが次第にわかるようになりました。
タンパク質の構成成分として知られるアミノ酸には、いろいろな種類がありますが、硫黄成分を含んでいる点で特徴的なアミノ酸を「含硫アミノ酸」と呼び、メチオニンとシステインの2種類が知られています。
メチオニンは、アミノ酸のなかでも「必須アミノ酸」と特別な呼び方をされているものです。この意味するところは、「私たちの体の中で自力で作り出すことができない栄養成分であり、同時に、これが無ければ生きることができない成分」であるということです。したがって、必須アミノ酸に分類される栄養成分は、それを含む食べものによって取り入れなければならないのです。食事の大切さを改めて感じます。そして、1986年のマウスによる動物実験を皮切りに、体内のメチオニンには、食事で取り入れたMSMがさらに少量ずつ取り込まれていくことがわかりました。
体の中のメチオニンにはいろいろな仕事がありますが、特に重要なのは、ホルモン・酵素・そのほかのタンパク質・アミノ酸、などのかたちや働きを、さまざまな目的に合わせて変化させていくことです。つまり、すでにある材料を、使える状態にするという点で、非常に重要な役割を担っています。
また、痛みやかゆみを起こす、血液中のヒスタミンを減少させる力も持っています。
一方、システインは、必須アミノ酸ではありませんが、じつはメチオニンから作られているアミノ酸です。この点でも、メチオニンが大切なアミノ酸であることがわかります。
システインの重要な仕事としては、全身の細胞に含まれているグルタチオンになることが挙げられます。グルタチオンは、病気や老化の原因になる激しい酸化から、体をまもる役割を担っています。また、グルタチオンには、発ガン性物質や有害化学物質を体の外に追い出す解毒力もあることが知られています。
このように、重要な仕事をしている含流アミノ酸のメチオニンとシステインですから、両方がそろわなければ作れない体内成分もたくさんあります。たとえば、血糖値を下げることで知られるインシュリン、血液をサラサラにさせるヘパリン、血液中のコレステロール量増加を抑えたり、血圧の低下を助けることで知られるタウリン、などがそうです。
そのほか、多種類のアミノ酸が集まって、いろいろな役割を持つタンパク質をつくり上げる時、含流アミノ酸に含まれる硫黄成分が大活躍します。なぜなら、硫黄と硫黄が結びつく結合方法が、最も頑丈な構造をつくるからです。簡単にこわれてはいけないタンパク質の構造を作るためには、結合部分に硫黄が欠かせないということになります。
アミノ酸やタンパク質以外にも、MSMの硫黄成分が必要とされている場所は、体内にたくさんあります。
たとえば、かたい骨と骨をつないでいる関節がそうです。関節の中には弾力性のある軟骨と呼ばれる部分があり、強い衝撃などから骨が傷つくのを守っています。軟骨の中には、必ずコンドロイチン硫酸やケラタン硫酸という成分があるのですが、この中に、特に硫黄成分がたくさん必要になってきます。
また、髪の毛や爪を作る成分のケラチンにも硫黄成分がたくさん含まれています。髪の毛を燃やすとくさい臭いがしますね。これはイオウ成分の臭いなのです。
さらに、体の末端の方にある細い神経の健康をまもるビタミンB1(チアミン)、皮膚を健康に保つのに役立つビタミンH(ビオチン)などでも、硫黄成分が欠かせません。
本来ならば、食べものに含まれている分だけで、私たちに必要な有機の硫黄MSMはまかなうことができ、健康上も問題が無かったのかもしれません。
しかし、ほかのどんな栄養成分とも同じように、現代に生きる私たちは、食べものだけで必要なMSMを十分に取り入れられなくなってしまったのでしょう。農業のやりかたや、食品の加工方法が便利になる一方で、確実に失っているものがあるのです。また、高齢になると、体の中の反応で作り出されるMSMの量が減りやすくなることがわかっています。慢性病になったときにも、MSMの量は減りやすくなります。MSMをサプリメントとして補った結果、痛みなどの健康問題が解決された人がたくさんいる理由は、このへんにありそうです。