
私たちが健康でいられるのは、体内はもちろん、周りの環境や心の中のイメージといった普段無意識に捉えているものまでがバランスの良い状態にある時だけです。
最後のイメージの部分は、目に見えませんから、人それぞれの考えにまかされてしまいがちですが、健康を考える時にとても大事な部分です。
今回から四回の連載で、アートを通して想像力や音、色、私たちが何気なく取るバランス感覚と健康のつながりを考えて行きたいと思います。
私はたまたまインドのあるアートスタジオの作品と出会い、日本の紹介窓口になっているのですが、それは作品が『生命力』という、今の日本に大幅に欠けているものを豊かに持っている事と、その表現全体が、私たちの本来のあるべき中心に誘ってくれるメッセージを持っているからです。
この写真は板画で、中央インドの山岳民族、ゴンド族のアートです。世界の始まりを描いています。彼らの神話では、まず男と女がいて、太陽と月を作りました。太陽と月の誕生で「時」が生まれ、「時」ができたので、『場』が形を成し、樹が生え、生き物が登場します。
彼らは、地面の下にも世界があると考え、四角い地面の下にも生き物がいます。それぞれに目がついているのは、お互いに「見守りあって」いるからです。
樹はマフラの樹と呼ばれ、世界が創られた時の初めの樹で、未来永劫そこにあると信じられています。この樹は彼らにとり、もっとも大事なもので、衣食住を与えてくれるだけではなく、いつも世界の中心にある基準の樹なのです。科学的には矛盾するかもしれませんが、このようなイメージをいつも心に持ち、生活をする彼らの精神生活は、全てが命に包まれ、『見守りあっている』あたたかさがあります。すべての生き物のまなざしは優しく、それは画家一人だけではなく、この村全体の雰囲気がそうなのだと思います。
フレームは、一部が薬木のニームで作られ、顔料も含め、全てがオーガニックです。この画の前に立つと、私たちが置き忘れてきたもの、失ってしまったものを呼び起こされる気持ちになります。
私たちの健康は、自分の体だけの事ではなく、周りの人、生き物、場のすべての活力の上に成り立っている事をこの画は、教えてくれます。
内野 久美子
神奈川県生まれ。慶応大学博士課程修了。
米国スタンフォード大、カナダ・ビクトリア大に留学。宗教社会学専攻。著書「植物の力」(2002年刊)では、樹木や花がもたらしてくれる癒しの力を、現代の生活に生かすヒントを紹介。〈浄化〉というテーマを掲げるカナダ・フローラ社を取材した章では、そこで製造される薬草茶、フロー・エッセンスの、心とからだを浄化する作用について述べられている。現在は、インドの現代木工美術の生命力と知恵に魅了され、その作品を日本に紹介している。
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